負イオン源

サイクロトロンで加速できる水素イオンや重水素イオンは放射性薬剤やその他のラジオアイソトープの合成によく用いられ、近年ますますその需要が高まっています。これらのラジオアイソトープを効率よく多くの量生成するためには、第一にサイクロトロンから供給する加速した陽子や重水素イオンの電流量を増やすことが重要になります。この大電流化は本センターで推進している「DATEプロジェクト」に大いに関係があります。

サイクロトロンでは多くの場合、加速したい粒子を正イオンの状態で入射し磁場中を回転運動させながら交流電場を用いて加速します。エネルギーの高い粒子ほど回転半径が大きくなります。この加速された粒子をサイクロトロン本体から外部のビームラインに取り出す際には、一般に高電圧の静電場を用いたデフレクターと呼ばれる装置を用いて粒子の軌道を偏向させることで行います。しかし、デフレクターでは大電流での加速粒子の取り出しが難しく加速器本体の放射化等の問題があります。

本センターでは、大電流の加速粒子を得るために水素や重水素を負イオンの状態で加速し、サイクロトロン本体から取り出す際には炭素薄膜を通過させて負イオンから正イオンに電荷変換を行う手法(フォイルストリッパーを用いる手法)を採用しています。

同じ方向に運動する負イオンと正イオンは同じ磁場中では磁場から受ける電磁気力の向きが反対になるため、電荷変換さえ行えばサイクロトロンから取り出すことが可能になります。炭素薄膜での電荷変換の効率は非常に高く、大電流のビームをサイクロトロン本体から取り出すのに適しています。

 本センターでは、現在負イオン源を用いて10.23 kVの電圧で引き出す負の重水素イオンに対して最大約2.5 mAの電流量で生成し輸送することを実現しました。負イオン源からの負イオンをサイクロトロンで加速しフォイルストリッパーでの電荷変換を行い正イオンに変換することで取り出しを行い、様々なラジオアイソトープの製造に用いています。今後、負イオン源からのイオンの輸送の最適化、サイクロトロン本体からの取り出しと輸送の最適化を行うことでさらなる大電流での加速粒子の提供を予定しています。