粒子線治療研究用照射システム

粒子線治療とは、X線に比べて物理学的・生物学的に優れた特性を持つイオンビーム(荷電粒子ビーム)を用いた放射線がん治療法です。粒子ビームのエネルギーを制御することで、粒子線の停止直前に形成される最大線量域(ブラッグピーク)をがんに一致させることができます(図1)。

図1

図2

本照射システムは粒子線治療の基礎研究に特化した実験装置で、第5ターゲット室52コースに設置されています(図2)。粒子線治療に関連する放射線計測、検出器開発だけでなく、細胞照射による放射線生物学研究、マウス等の小動物照射による治療研究も可能です。照射装置は、水平・垂直ビーム走査電磁石、散乱体用チャンバー、エネルギー変調フィルター(リッジフィルター)、ビーム透過型線量モニター、レンジシフター、標的用照射架台、および制御系から構成されています。80 MeV陽子線に対して標的位置で約10cmの平坦な照射野を形成できます.電磁石電源は,プログラム制御によるビームスキャニング法とビームを自動円形走査するワブラー法に対応しています。電磁石は積層珪素鋼コア型で,ワブラー法では10Hzの交流磁場を形成します.線量率は2 Gy/minを標準としていますが、0.1 Gy/min以上から数10 Gy/minまで調整できます。また、担がんマウスによる治療実験用に、5 ~ 25 mm幅の拡大ブラックピーク(Spread-out Bragg peak)を形成可能です。線量評価は、電離箱形式の0.6cc指頭型プローブ(JARP型標準プローブ)とRAMTEC1000plus線量計を用いて行われます。